鈴鹿さつき温泉のことを調べていて、手が止まった。
公式サイトには「循環させずに浴槽に流し入れ、オーバーフローさせている」と書いてある。100%かけ流しだ。ところが別のサイトを見たら「加水・加温・循環・消毒あり」と書いてあった。
真逆だった。どちらが本当なのか、私には分からなかった。
「かけ流し」には決まった定義がない
調べて分かったのは、これだった。
「源泉かけ流し」という言葉には、決まった定義がない。表示の義務もない。
だから施設が自分で決めていい。「循環ろ過をしていなければかけ流し」と決めているところもあるし、加水や消毒はしていてもかけ流しと呼んでいるところもある。統一されていないのが実際のところだ。
決まりがないのだから、施設が不誠実というわけではない。困るのは、私たちが「かけ流し」のひと言では判断できないということだ。
見るのは4つだけ
- 加水(水で薄めているか)
- 加温(温めているか)
- 循環ろ過(同じお湯を回して使っているか)
- 消毒(塩素などを入れているか)
この4つが全部「なし」なら、湧いたお湯がそのまま浴槽に来ているということになる。
でも「消毒なし」がいいとは、一概に言えない
ここは大事なので、はっきり書いておきたい。
循環している浴槽は、同じお湯を繰り返し使う。人が入れば汗も皮脂も入る。それが配管の中を回る。配管の中は温かくて栄養もあるので、菌が増えやすい。
だから循環している浴槽は、消毒しないと危ない。レジオネラという菌は、実際に人が亡くなる事故を起こしている。
一方でかけ流しは、常に新しいお湯が入って古いお湯は捨てられる。溜まらないので菌が増えにくい。だから消毒しなくても成り立つ。
つまり、こういうことだ。
- かけ流し+消毒なし → 成り立つ
- 循環+消毒あり → 正しい手当て
- 循環+消毒なし → いちばん危ない
消毒しているからダメな施設、ではない。循環している施設が消毒をしているのは、やるべきことをきちんとやっているということだ。
私が消毒なしのお湯が好きなのは、安全の話ではなくて好みの話だ。湧いたそのままの、濃いお湯に入りたいというだけのこと。そしてそれは、かけ流しだから成り立つ好みでもある。
そもそも、全部の浴槽が温泉ではない
もうひとつ、大事なことがある。
温泉の施設でも、全部の浴槽が温泉というわけではない。むしろ、一部だけが温泉というところがほとんどだ。
どれが温泉なのかは、掲示や浴槽の札にちゃんと書いてある。だからこちらが見て入れば、迷うことはない。
そして温泉ではない浴槽は、水道水を使っている。水道水を回して使うのだから、循環と消毒をしているのは当たり前のことだ。
つまり「この施設は循環も消毒もしている」という情報だけでは、何も分からない。どの浴槽の話をしているかで、意味がまるで変わる。
尼崎の尼崎・つかしん天然温泉 湯の華廊も滋賀の滋賀・蒲生野の湯も、源泉の浴槽だけがかけ流しで、ほかの浴槽は循環している。だから同じ施設で「かけ流し」と「循環あり」が、両方とも本当になる。
最初に引っかかった鈴鹿さつき温泉の食い違いも、おそらくこれだと思う。公式が言っているのは源泉の浴槽のことで、別のサイトが書いているのは施設全体のことなのだろう。どちらも嘘ではない。さつき温泉のお湯は、私が入ってもいいお湯だった。
私が気にするのは、源泉の浴槽だけだ。
これは好みというより、私の温泉への向き合い方の話になる。私はお湯そのものの力を信じている。何十か所も入ってきて、泉質によって体の変わり方がこんなに違うのかと、何度も驚いてきたからだ。
だからその力を、できるだけそのまま受け取りたい。薄めたり、回したり、薬を足したりしていないお湯に入りたい。消毒をすれば、泉質は少し変わってしまう。
根っこにあるのは、湯治への気持ちだ。昔の人は同じ湯に何日も通って体を治した。私がやっているのはその真似ごとみたいなものだけれど、それでも本気で体を整えるつもりで入っている。だからお湯には、手を加えていないほうがいい。
▷ 湯治のことはこちら → 湯治とは何か
でもジェット風呂は立ち湯になっていることが多いので、水圧を考えて必ず一回は入る。循環と消毒を毛嫌いしているわけではない。
▷ 水圧の話はこちら → お風呂の水圧って体にどう働く?
19か所を調べた表
自分が入った温泉を、この4つで並べてみた。公式サイトに書かれていないものは「未確認」としている。
| 温泉 | 加水 | 加温 | 循環ろ過 | 消毒 |
|---|---|---|---|---|
| アクアイグニス片岡温泉 | なし | なし | なし | なし(添加物もなし。シャワーまでかけ流し) |
| 六甲おとめ塚温泉 | なし | なし | なし | なし |
| 滋賀・蒲生野の湯(源泉浴槽) | なし | なし | なし | なし |
| 神戸・湊山温泉 | なし | あり(薪で沸かす) | なし | なし |
| 京都・仁左衛門の湯 | なし | なし | 未確認 | 未確認 |
| 三重・湯の山温泉 グリーンホテル | なし | 不要(45.2℃) | なし | 未確認 |
| 鈴鹿さつき温泉 | あり | あり | 浴槽で違う | あり |
| 和歌山・花山温泉 | なし | 浴槽で違う | なし | なし(源泉浴槽) |
| 尼崎・つかしん天然温泉 湯の華廊 | 未確認 | 不要(48.1℃) | 源泉風呂と壺湯はかけ流し/他は循環 | 未確認 |
| 大阪・美人湯 祥風苑 | なし | あり | あり | あり |
| 同級生との奈良・女子旅(金剛乃湯) | なし | あり | あり | 未確認 |
| 蒲田の黒湯温泉(蒲田温泉) | なし | あり | 未確認 | 未確認 |
| 京都・北白川 不動温泉 | 未確認 | あり(冷鉱泉) | 未確認 | 未確認 |
| 渡鹿野島(宿) | 未確認 | あり | あり | あり |
| 伊豆・河津七滝オートキャンプ場 | 未確認 | 未確認 | 未確認 | 未確認 |
※温泉地として書いた草津温泉・玉造温泉・小浜温泉は、施設ごとに扱いが違うのでこの表には入れていない。草津は加水せずに「湯もみ」で冷ます文化があり、玉造は69.8℃と高い源泉のところで加水しているそうだ。
4つ全部「なし」と確認できたのは、3か所だけだった
加水も加温も循環も消毒もない、と確認できたのは3つ。アクアイグニス片岡温泉、六甲おとめ塚温泉、それに滋賀・蒲生野の湯の源泉浴槽だった。
アクアイグニス片岡温泉は添加物もなしで、しかもシャワーまで源泉のかけ流し。ここは全国でも珍しいと紹介されている。
神戸・湊山温泉は薪で沸かしているので加温はある。でも加水も消毒もしていない。私はこのお湯がとても好きだ。
湊山温泉がすごいのは、薪で沸かしていることだけではない。沸かしたお湯を、回さずに捨てているということだ。
燃料を使って温めたお湯を、そのまま流してしまう。もったいないと思うのが普通だと思う。だから多くの施設は、一度温めたお湯を循環させて使う。
湊山はそれをしない。毎日薪を割り、火を守り、灰を出して、そうして沸かしたお湯を惜しまずに流している。手間と燃料を両方かけて、かけ流しを守っているということになる。
冷たい源泉しか湧かない場所では、温めなければ入れない。加温は悪いことではない。ここまでして加温している施設には、頭が下がる。
そして——「かけ流し」と名乗っている施設は、この3か所よりずっと多い。
なぜ差が出るのか。答えは源泉の温度だった
表を並べて、はっきり分かったことがある。加水も加温も、源泉の温度が決めている。
- 40℃前後で湧く → 何もしなくていい(六甲おとめ塚40.6℃、片岡温泉42℃、グリーンホテル45.2℃)
- 低い温度で湧く → 温めないと入れない(蒲田温泉18℃、湊山26.8℃、金剛乃湯28.4℃、不動温泉は冷鉱泉)
- 高すぎる → 薄めたくなる(玉造温泉は69.8℃の施設で加水しているそうだ)
つまり加温や加水は、施設の手抜きではない。源泉の温度でそうせざるを得ない。
その点で息子を誘って、草津温泉へは面白い。熱いお湯を水で薄めずに、木の板でかき混ぜて冷ます「湯もみ」をする。加水しないために、あの文化ができた。
「純温泉」という、決まった基準があった
調べているうちに、見つけたことがある。「純温泉」という表記だ。
一般社団法人 純温泉協会という団体が認定している。この団体ができた理由を読んで、少し驚いた。「源泉かけ流し」には明確な定義がなく、どんな湯使いをしているか分からないから——そう書いてあった。この記事のはじめに書いたことと、まったく同じだ。
基準はこうなっている。まず、どのタイプでも必ず満たさないといけないのが3つ。循環ろ過なし・消毒なし・入浴剤なし。浴槽の湯は流しっぱなし(完全放流式)。
そのうえで、加水と加温でタイプが分かれる。
| タイプ | 加水と加温の条件 |
|---|---|
| 純温泉A | 加水なし・加温なし |
| 純温泉B | 加水あり(源泉の個性を損なわない程度) |
| 純温泉C | 加温あり(低い温度の源泉を適温にする場合) |
| 純温泉D | 噴気造成泉 |
| 純温泉E | 溜湯方式(貸切で、一組ごとに湯を入れ替える) |
そして協会は「ランクは付けません」とはっきり書いている。AからEは上下ではなく、条件の違いだ。
私がいちばん納得したのは、加温がCとして認められているところだ。低い温度で湧く源泉を、入れる温度にするための加温。湊山温泉に頭が下がると書いたのは、的を外していなかったのだと思った。
私の表に当てはめてみると、六甲おとめ塚温泉・アクアイグニス片岡温泉・蒲生野の湯の源泉浴槽がAにあたる。湊山温泉はCにあたる。
念のため書いておくと、この認定は施設が申請して受けるもので、いま挙げた4か所は認定を受けていない。私が基準に当てはめてみただけだ。
私はもう、純温泉Aに入っていた
認定を受けている施設を見ていて、声が出た。花山温泉があった。去年入って、記事にも書いたところだ。
しかもAとC、両方の認定を受けている。
- 純温泉A……男湯手前の浴槽と、女湯の浴槽(25℃の源泉そのまま)
- 純温泉C……男湯と女湯の露天風呂(熱交換器で加温)
熱交換器というのは、お湯に何も入れずに、管を通して熱だけを渡す仕組みだ。だから成分が薄まらない。手間のかかるやり方をしている。
そして認定のページには、こうも書かれていた。「純温泉には該当しない加温湯も利用可」。
つまりこの一軒の中に、純温泉Aの浴槽と、純温泉Cの浴槽と、純温泉ではない浴槽が同時にある。
これが、さっき書いた「浴槽ごとに違う」ということの答えだと思った。認定する団体自身が、施設ではなく浴槽ごとに認定している。だから「ここはかけ流しですか」という聞き方では、答えが出ない。どの浴槽の話ですか、が先に来るのだ。
私は表で花山温泉を「消毒あり」と書いていた。あれは施設全体としての数字だった。源泉の浴槽は、消毒なしだ。表を直した。
▷ 25℃の源泉と、飲泉で失敗した話 → 和歌山・花山温泉|関西最強の炭酸泉は、温まるのに頭がのぼせなかった
冷泉のままの湯舟が、もっと増えてほしい
ここからは、ただの客の願いを書きます。
冷たい源泉が湧いているのに、全部を温めて出している施設がある。もちろん温めないと入れないのだから、そうするのが当たり前だ。
でも私は、冷泉のままの浴槽も残してほしいと思っている。
冷たい源泉は、水道水の水風呂とは違う。成分が入った冷たいお湯だ。そこに浸かって、温かい湯に戻る。それだけで温冷浴になる。私はこれで体が変わった。冷えていた体が、自分で熱を作れるようになった。
▷ その話はこちら → 冷水は体に悪い?その思い込み、南山紘輝さんの話で全部ひっくり返った。
いま書いた花山温泉もそうだが、ほかにもある。京都・仁左衛門の湯は26.2℃の冷泉と46.6℃の湯の両方がある。神戸・湊山温泉は26℃から46℃まで5種類の温度が全部かけ流し。滋賀・蒲生野の湯は35℃前後の源泉浴槽をそのまま残してくれている。
こういう言い方は差し出がましいけれど、湊山温泉の方は、自分たちのお湯の価値をよく分かってらっしゃるのだと思う。沸かしたお湯を惜しまずに流していることからも、それが伝わってくる。
冷泉には冷泉のよさがある。冷たいままで入れる湯舟が、もっと増えてほしい。一人の客として、そう思っている。
掲示が見つからないときは
ここまで「4つを見てください」と書いてきたけれど、正直に言うと、私も見つけられないことがある。河津七滝でも、仁左衛門の湯でも、探したのに見当たらなかった。
法律をよく読んだら、理由が分かった。温泉法ではこう決まっている。
加水する場合は、その旨及び理由
加温する場合は、その旨及び理由
循環させる場合は、その旨及び理由
消毒する場合は、消毒方法及びその理由
「している場合は」と書いてある。
つまり何もしていない施設には、書くことがない。
だから掲示が見つからないとき、それは「隠している」とは限らない。書く項目が、そもそも無いのかもしれない。
もちろん、これだけでは決められない。ただ掲示していないだけかもしれないし、自治体によっては「有・無」を両方書かせているところもある。
だから私は、ほかの手がかりと合わせて読むようにしている。
- 浴槽の温度と源泉の温度が同じかどうか。同じなら、水も足していないし温めてもいない
- 公式サイトに、お湯の扱いについての説明があるか
- お湯があふれ続けているか。注ぎ口から出た分が、そのまま流れていくか
仁左衛門の湯は、浴槽の温度が源泉とぴったり同じだった。そして公式に「極力手を加えておりません」と書いてある。掲示は見つからなかったけれど、この2つで、加水と加温についてはもう分かった。
見つからないことも、情報のうちだった。
現地で確かめる方法
温泉には成分分析書の掲示が義務づけられている。だから現地には必ずある。
脱衣所や浴室の入口に貼ってあることが多い。そこに泉質と、加水・加温・循環・消毒の有無が書かれている。
ネットで分からなかったら、現地で見る。今回調べてみて、それがいちばん確実だと分かった。
それと、ひとつ困ることがある。掲示が脱衣所にあると、写真が撮れない。ほかの人が写ってしまうので、撮るべきではない。だからメモを取ることになる。
もうひとつ、先に探すといい場所がある。県や地域の温泉協会のサイトだ。花山温泉のデータは和歌山県温泉協会のページに、加水・加温・循環・消毒まで一覧で載っていた。今回いちばん早かったのはここだった。
未確認が、まだたくさん残っている
正直に書くと、この表にはまだ「未確認」がたくさんある。公式サイトに書いていない施設が多いからだ。
ただ、書いていないからといって、いい加減にしているとは限らない。
京都の仁左衛門の湯は、循環と消毒について書かれていない。でも公式サイトに、こういう一文がある。
かけ流し風呂は湧きたての温泉成分の一番濃い所を楽しんでいただくために極力手を加えておりません
数字は分からない。でもどういう考えでお湯を出しているのかは、はっきり分かる。私はこの一文で十分だと思った。あとは自分で入って、確かめればいい。
(追記)そのあと実際に行って、壁の分析書を読んできた。
分析書に書かれた源泉の温度は仁の湯46.6℃・壱の湯26.2℃。そして浴槽の温度も、同じ46.6℃と26.2℃だった。
源泉の温度と浴槽の温度が同じということは、水も足していないし、温めてもいないということだ。加水と加温は、これで自分で確かめられた。
残っているのは循環と消毒の2つ。その掲示は見つけられなかった。次に行ったときにもう一度探してみる。
▷ 分析書の写真と、あの独特の香りの正体はこちら → 京都・仁左衛門の湯|冷泉があるのが嬉しい。泉質と、あの香りの正体
▷ 仁左衛門の湯のことはこちら → 京都・仁左衛門の湯|冷泉があるのが嬉しい。泉質と、あの香りの正体
次にそれぞれの温泉に行ったときに掲示を見て、ひとつずつ埋めていきます。埋まったら、この記事も書き直します。
「かけ流し」のひと言では分からない
調べ始めたきっかけは、公式サイトと別のサイトで真逆のことが書かれていた、あの戸惑いだった。
でも4つを見ればいい、と分かってからは楽になった。看板の言葉を疑うのではなく、4つを確かめればいいだけだった。
それが分かってから、脱衣所の壁を見るようになった。

