20年前、この場所で「湯治」という言葉を初めて知ったと前に書いた。
▷ 伊豆・河津七滝オートキャンプ場|子連れ・犬連れで泊まった、ベランダ源泉かけ流しのコテージ
あのときは、言葉を知っただけだったが、今回は実際にやってきた。
2泊3日で、お風呂に16回入った。
20年ぶりに、同じ道を走った
朝5時に家を出た。お盆休みだったけれど、早朝の出発だったのでひどく混むこともなく走れた。
ループ橋が見えたら、もうすぐだ。

河津七滝温泉の奥のほうにあるオートキャンプ場。数十年ぶりなので「こんな道だったかな」と夫婦で話しながら走る。「まだ行く? 道間違ってない?」と不安になりながら進むと、キャンプ場の看板が見えた。
私は「こんな感じやったっけ?」と全然覚えていなかったのに、夫は見たとたんに思い出したようで、「あぁ! こんなんやったわ」と嬉しそうにしていた。

部屋の中だけは、記憶のままだった
まず受付で鍵をもらって、説明を受ける。そして部屋へ。
部屋へ行く扉と階段が薄暗くて「こんなんだっけ?」と驚いた。階段を上がると長い廊下があり、部屋が並んでいる。11室。

こんなんだったかな、と思いながら鍵を開けて入ると——部屋の中は記憶のままだった。「部屋の中は覚えてる!」と懐かしさがこみ上げた。
ただ、もう少し広い記憶だったのでこんなに狭かったかなとは思った。
最初は狭いかなと思ったけれど、数時間後には「十分な広さかな」と狭さは感じなくなっていった。
前は寝袋だった。今回は上下に分かれて
20年前は寝袋で寝た。寝袋を持っていたし、子どもたちはそのほうが喜ぶからだ。その「いつもと違う感じ」が嬉しいらしい。
今回は布団を借りた。もう寝袋は持っていないし、寝袋を喜ぶ年齢の子どももいない。
娘は犬と一緒に寝るので、借りた布団に毛がついてしまう。それで空気で膨らむマットを持ち込んでいた。
借りた布団を汚すといけないので、私たちはロフトで寝ることにした。布団は夫が持って上がってくれた。3人で下に寝るのは少し狭いので、上下に分かれて寝たのはよかったと思う。

小さな頃は、子どもが上で寝たいとはしゃいで、4人で上で寝た記憶がある。
当時も犬たちのゲージを持ち込んでいたので夜はゲージで寝ていた。今回は娘と一緒に寝たので、ゲージの入り口を開けたままにしてあって、娘のところとゲージを行ったり来たりしながら寝ていた。
ベランダの、木の湯船
ここのいちばん面白いところは、コテージのベランダに源泉かけ流しのお風呂がついていること。

湯船の奥が格子になっていて、その向こうは森だ。ただ、裏側もキャンプ場なので人がうろうろしている。お風呂場が見えてしまいそうでドキドキするので、目隠しがあるほうが安心だ。
うちは古いダブルのシーツを洗濯ばさみで留めて目隠しにした。これがあれば、安心して入れる。

熱いはずのお湯が、ちょうどよかった
前に書いたとき、私の記憶は「熱い、透明な、癖のないお湯」だった。調べても「24時間入り放題でアッツアツ」と出てきて、まさにあの熱さだと思っていた。
ところが今回は、ちょうどいいお湯加減で心地よかった。熱くない。
遠い記憶を思い出すと、お湯の出る量がもっと多かったような気がする。だから熱かったのかなと思う。今回はちょろちょろと少ないので、それがちょうどいい温度を作っているのかなと思った。

掲示を見て、理由がわかった
部屋に温泉の分析書が掛かっていた。前に書いたときは泉質も源泉温度も「未確認」だったので、今回それが全部埋まった。

- 源泉名:梨本温泉 梨本10号
- 泉質:アルカリ性単純温泉(低張性・アルカリ性・高温泉)
- 源泉温度:54.3℃
- pH:8.8
- 成分総計:0.855g/kg
源泉が54.3℃だった。そのまま勢いよく出したら、熱くて入れない。
つまり、ちょろちょろ出して湯船で冷ましながら、ちょうどいい温度にしているということだ。水で薄めていないのに、適温になる。
これは息子を誘って、草津温泉へ|コロナの夏、家族三人で過ごした二日間で見た「湯もみ」と同じ考え方だと思った。加水しないために、手間をかけているのだ。
▷ お湯の扱いで見るのは4つだけ → 源泉かけ流しの見分け方|19か所を自分で調べて分かったこと
ただ、加水・加温・循環ろ過・消毒の4つの掲示は、探したけれど見当たらなかった。分析書だけだった。ここは次に泊まったときにもう一度探してみる。
この土地の水は、冬の水くらい冷たい
前回は水を浴びていないので気づかなかったけれど、ここの水はとても冷たい。冬の水くらいの冷たさがある。キッチンの水もすごく冷たい。
来る途中に、浄蓮の滝のワサビ田のそばを歩いてきた。ワサビは、年間を通して13℃くらいの冷たい湧水でないと育たない。
暑い時間帯だったのに涼しく歩けたのも、蛇口の水が冷たいのも、同じ理由だったということになる。
水シャワーは、足から順番に
水風呂がないのは残念だった。でも水シャワーが予想よりも心地よくて、何回も繰り返した。
足、腕、お腹、そして頭まで。少しずつ上げていく。かなり冷たいので、夏なのに最初は勇気がいる。でも冷たいから、慣れると本当に気持ちがよかった。
湯船ひとつとシャワーだけだと、なかなか長くは入れないことが多いのに、1時間は余裕で入れた。
サウナーが富士を好むのは、水風呂の気持ちよさもあるのかもしれない。
▷ 温冷浴の入り方はこちら → 深部体温が上がらない日の温冷浴|一瞬の水風呂と、三つの入り方
2泊3日で、16回入った
数えてみたら、こうなった。
- 1日目……荷物を整理したあと/夕食の準備前/夕食の直前/夕食後/寝る前
- 2日目……早朝4時/朝食前/朝食後/散歩のあと/お昼ごはん前/お昼ごはん後/夕食前/夕食後/寝る前
- 3日目……早朝4時/帰る直前に汗を流すのに軽く
夫婦でそれぞれ、これだけ入った。二人で交互にお風呂。部屋にあるので、本当に気軽に入れる。
入ったあとはお昼寝をしたり、散歩をしたり。夫はお酒を軽く楽しんだり。とてもゆっくりした、まさしく湯治らしい旅行だった。
板の間なのに、足が冷えなかった
部屋は板の間だ。夜はそれなりに涼しくなるので、足が冷えるかもしれないと思っていた。
でも冷えを感じることは、一度もなかった。
これだけ温冷浴を繰り返していたからだと思う。体の温まりがしっかりあったのだ。水シャワーもかなり冷たかったので、そのぶん深部体温の温まりもしっかりあったのだと思う。
分析書を見たら、適応症に「冷え症」が入っていた。そのとおりだったと思う。
そしてもうひとつ、気づいたことがある。
長くお湯に浸かっても、汗だくにならなかった。
水シャワーを浴びるから、必要以上の汗をかかない。だから、無意味な体力の消耗がなかった。
お風呂に入ると少し疲れる。でもそれは気持ちのいい疲れで、汗をかきすぎてぐったりする疲れとは違う。だから何度も入れるのだと思う。
「1日2〜3回まで」と書いてあった
昔からの湯治は21日間だそうだ。七日一巡りを三巡り。そして最初は1日1回から始めて、体を慣らしながら少しずつ回数を増やしていく。
▷ 湯治について調べたことはこちら → 湯治とは何か|二十一日間の入り方と、私が知った昔からの考え方
分析書の注意書きにも、同じことが書いてあった。
温泉療養を始める場合は、最初の数日は入浴回数を1日当たり1回程度とし、その後は1日当たり2回ないし3回までとすること
私は1日目から5回、2日目は9回入っている。明らかに多い。
それでも湯あたりはしなかった。理由は3つあると思う。
- 温冷浴だから。水シャワーで熱を抜くので、のぼせないし、汗もかきすぎない
- お湯がぬるめだったから。54.3℃の源泉をちょろちょろ出して冷ましているので、熱がこもらない
- 30代から温冷浴を続けていて、体が慣れているから
普通の湯治で1日2〜3回までとされているのは、それ以上入ると湯あたりを起こすからだ。でも温冷浴なら熱がこもらないので、回数を重ねられる。
だから「16回入れます」とは書けない。はじめての人は1日1〜2回から。だるさや気分の悪さが出たら、それが湯あたりなので、回数を減らすか中止する。
▷ 私の温冷浴のやり方 → 深部体温が上がらない日の温冷浴|一瞬の水風呂と、三つの入り方
湯治は退屈だと思っていた
ちゃんとした湯治というのは少し退屈で、暇を持て余すんじゃないかと思っていたけど、まったくそんなことはなかった。
お風呂に入ると少し疲れる。特に私たちは水シャワーをしっかりやるので余計に体力を使う。
体力を使うから、普段できないお昼寝が気持ちよくできる。お風呂上がりに常温の水や無糖炭酸水を飲みながら、ゆっくり本を読んだり。
クアコテージは場所によってはWi-Fiの電波が悪いところがあるので、自然とスマホを触る回数も減る。外を歩いても涼しくて、自然だらけの道。すべてが癒される。
退屈と感じた瞬間は、一度もなかった。
▷ 連泊のやり方を3つに整理しました → 温泉の連泊、どう過ごすか|湯めぐりと湯治は別だった。私の3つの型

特徴のないお湯だと思っていた
お湯は単純泉で、なんの特徴もない。色もないし、匂いもない。
でも数回繰り返して入っているうちに、肌のしっとり感をすごく感じるようになった。
お湯に浸かって、水シャワーを浴びて、もう一度お湯に浸かる。そして顔を手で触ると、乳液をしっかりとつけた後のように、手に吸い付くような感覚になる。シアバターのような油脂を薄く塗ったあとのような。これがすごく不思議だった。
あとで調べたら、
- pH8.8のアルカリ性が、古い角質と余分な皮脂をゆるく落とす → つるつる
- メタケイ酸が49.9mg入っている。これは肌に水分を与える成分 → しっとり
この2つが重なると、つるつるとしっとりが同時に来る。角質は少しずつしか落ちないので、繰り返すほど効いてくる。だから数回目に気づいたのだ。
一回入っただけでは何の特徴もない湯なのに、繰り返し入ると、肌のしっとり感でお湯の特徴に気づく。
今まで単純泉は特徴がないと思っていたけれど、どこも繰り返し入っていたら、こんな特徴に気づけたのかもしれない。
早朝のお風呂が、一番贅沢だった
夜は遅くまで、キャンパーたちが火の番をしながら楽しんでいる。朝も4時すぎから、火をおこす香りがしてくる。
お風呂が外にあるから、そんな静かな人の動きにも気づく。
そして早朝のお風呂は、少しずつ明るくなるにつれてひぐらしが鳴き始める。この鳴き声がすごく癒される。
明るくなる空と、ひぐらしの声。早朝のお風呂が一番贅沢だと思った。
20年前と同じ、穏やかな空気だった
クアコテージは満室。オートキャンプのほうもたくさんの人でにぎやかだった。にぎやかだけど、穏やかな空気。
20年前、子連れで来ていた時も同じだった。自然のなかだと、子どもを怒ることをしなくてすむ。怒る必要があるシーンが少ないのだ。
子どもを怒らなくて済むというのは親にとって嬉しいことだけれど、傍にいる大人にも穏やかな雰囲気になるので、ありがたいものだと思った。
笑い声や、追いかけっこをする奇声などは聞こえてくる。でも広い場所ということもあって、キンキンしない。ただただ穏やかな空気が流れている。
ほぼ自炊だった
今回は湯治らしく、ほぼ自炊だった。
スーパーで食材を買って、簡単に料理して食べる。ビールとおつまみを楽しんだり、魚を焼いてご飯とワサビ漬けと一緒に食べたり。お刺身もよく食べた。

魚屋さんで売っていた惣菜を、トレーのまま二品だけ。これで十分だった。
食べ過ぎず、好きなものを好きな量で食べられるのは、体がしんどくならなくていい。
お風呂にたくさん入るというのは思うよりも体力を使うので、食べ慣れたものを少しだけにしておくというのは、大切なことかもしれない。
地獄蒸しができるようなところだったら、もっとシンプルに蒸し料理を楽しめるからいいなと思う。いつかそんな温泉地でも湯治をしてみたい。
湯治を教わった「嵐の湯」に、今回も入れなかった
ここには24時間入れる露天風呂もあるし、併設の「嵐の湯」もある。
嵐の湯は、私が「湯治」という言葉を初めて知った場所だ。15種類の薬石に源泉かけ流しのお湯を染み込ませて、その上に寝そべる。お湯のない温泉。
▷ そのときの話 → 伊豆・河津七滝オートキャンプ場|子連れ・犬連れで泊まった、ベランダ源泉かけ流しのコテージ

それなのに、今回も入れなかった。
部屋のお風呂があまりに気持ちよくて、そこまで行くのも面倒になってしまったのだ。気づくと受付の時間を過ぎていた。「奇跡の」と書いてあったので、入ってみたかった。

24時間の露天風呂にも入っていない。日帰り温泉にもいろいろ行ってみようと思っていたのに、部屋のお風呂だけで引きこもりになってしまった。
次に来るときは、絶対に入る。
50代に、こんな時間はなかなかない
50代は、仕事で忙しい年齢だと思う。
子育ては終わったけれど、仕事では責任のある位置にいたりして、かえって忙しくなってくる。そんな50代が、ゆっくり過ごせる時間はなかなかない。
だからこんなに癒しを感じられる旅行は、本当に命の洗濯をしたのだと思う。
お湯に癒されて、体が楽になって、冷えも出なかった。それだけのことなのに、こんなに満たされるものなのだと思った。
ずっと「来てよかった」と思っていた
家を出るまでは、2泊も留守にするのが心配だったり、家のことが気になったりしていた。
でも着いてからは、どの瞬間もずっと「来てよかった」と思っていた。夫もずっと「来てよかった」としみじみ言っていた。それくらい今回の湯治旅は幸せなものだった。
最後のお風呂に入りながら「もう終わりな事が残念だ」と思い、夫も「もう入れない」と思ったと言っていた。
20年前、ここで「湯治」という言葉を知り、今回はそれを実際にやってみた。言葉を知ってから、20年かかったことになる。

