仙骨(せんこつ)という骨をご存じだろうか。お尻の割れ目のすぐ上にある、平たい骨だ。

私は五年ほど前まで、この骨の名前も場所も知らなかった。知ったのは友人がきっかけだった。
友人が腰を痛めて、はじめて仙骨を知った
コロナが始まる年のことだった。友人が「腰が痛い」と言うので調べてみると、原因は仙骨だった。仙骨という場所を知ったのは、そのときが初めてだ。
調べてみると、普段の生活を送るためにも、女性として元気に過ごすためにも、すごく大切な部分だと分かって驚いた。友人と二人で「こんなに大切な部分なのに、なぜ知らなかったんだろう」と、無知だったことにショックを受けた。
私たちと同じように、仙骨という場所やその大切さを知らない人はきっと多いんじゃないかと思う。知っていれば大切にできるのに、知らないから意識しないで過ごしてしまう。そんな人が少しでも減ればいいなと思ってこの記事を書いている。
姉のような友人
その友人と知り合ったのは中年になってからで、それまでに出会ってきた人とは、まったくタイプの違う人だった。
専業主婦として過ごした時間が長くて、自分の家が大好きで、自分の家を誇りに思っている人。たくさんの苦労をしているのに「私は何も苦労なんてしていないよ。恵まれていたから」と笑う人。私には姉妹がいないので、初めて「お姉さん」と思える人に出会えた。それくらい温かくて、今もいつも家族のように迎え入れてくれる人だ。
その友人がある日突然、痛みでしんどくなった。友人もパニックになり、私もパニックになり、そのすぐあとにコロナがやってきた。
心配なのに会えない日々
心配なのに、会いに行くのをためらう日々が続いた。行けば彼女とご家族が負担に思うかもしれない。そう思うと動けなかった。
心配なのに会えない。あれは本当につらかった。
そんなふうに思っていたとき、彼女から「もしよかったら家にこない? コロナだから無理には言えないけど」と誘ってもらった。私は一つ返事でお邪魔した。久しぶりに顔が見られて、どれだけホッとしたか。
病状が落ち着くまでの初期はいろいろ大変だった。弱気になる彼女。「弱い心は家族には見せられない」という言葉に、私はただ「うんうん」とたくさんの弱気な言葉を聞いた。そして彼女は自分の暗い人生観のような話も、ぽつりぽつりと話してくれた。
私自身、あんな話を人としたのは生まれて初めてだったし、人のあんなに暗い話を聞いたのも生まれて初めてだった。
ありがたいことに今ではずいぶん元気になって、暗い弱気な話を二人ですることもほとんどなくなった。彼女の病気が生死にかかわるものだったのかは、私にはわからない。でも、もしあのとき彼女に何かあったら、私は悲しみの底に落ちていたと思う。だから今、彼女が元気でいてくれることは私を救ってくれたことだと思っている。
こんな状況で知った場所だから、私にとって仙骨はとても大切な場所としてインプットされている。
仙骨は上半身と下半身のつなぎ目
まず、性別に関係なく大切な場所として。
仙骨は骨盤の真ん中にあって、左右の骨盤の骨(腸骨)に挟まれている。上には背骨(腰椎)、下には尾骨が続いていて、ちょうど背骨と骨盤をつなぐ「要(かなめ)」のような位置にある。上半身の重さを下半身へ伝える通り道になっているのだそうだ。
仙骨と骨盤のつなぎ目は「仙腸関節」と呼ばれていて、人の体でいちばん強い靭帯とまわりのインナーマッスルでがっちり支えられている。歩く・立つといった動きのときに、上半身と下半身の動きをうまくつないでバランスをとってくれている場所だ。だからここがうまく働かないと、腰や膝に痛みが出ることもあると言われている。
この構造を知って、見方が変わった。体の真ん中で、上と下をつないでいる骨。地味だけれど、これがなければ歩けないのだ。
仙骨は、もとは5つの骨だった
調べていて意外だったのが、仙骨はもともと一枚の骨ではないということだった。
もとは5個の仙椎(せんつい)という別々の骨だ。子どものころはまだ分かれていて、20歳ごろまでにくっついて逆三角形のひとつの骨になる。5つが1つにならないと支えきれない場所なんだと思った。
ほとんど動かないのに、動いている
仙腸関節が動く幅は3〜5ミリ程度だそうだ。関節と呼ぶのがためらわれるくらい、わずかしか動かない。
それなのに支えているのは、さっき書いたいちばん強い靭帯だ。ほとんど動かない場所をいちばん強い靭帯でがっちり留めてある。それだけ大きな力がかかる場所だということだと思う。
そしてここが厄介なところでもある。動く幅が小さいので、レントゲンに異常として写りにくい。だから痛みが出ても原因がわからないまま「腰痛」とだけ言われてしまうことがあるらしい。
友人も最初は「腰が痛い」と言っていた。調べていってようやく仙骨にたどり着いたのは、たぶんそういう理由だったのだと思う。
女性にとって大切な理由
そしてもうひとつ、女性にとって大切な場所でもある。
仙骨は子宮や卵巣を後ろから包み込むような位置にある。だから仙骨を温めると骨盤の中の血流がよくなって、女性ホルモンの働きを支えると考えられているそうだ。生理痛や更年期の不調が楽になることもあると言われている。
さらに、私が今すごく意識している自律神経にも関わっている。仙骨の内側には骨盤内臓神経という副交感神経の一部が通っていて、ここを温めると副交感神経のスイッチが入りやすいという。更年期はなかなか副交感神経が優位になりにくい。そのスイッチがここにあって、そのうえ女性ホルモンの働きまで助けてくれるなんて、と驚いた。
▷ 更年期と自律神経の話はこちら → 更年期の「整う」は温泉と水風呂で|サウナが苦手な50代がたどり着いた温冷浴のやり方
温めると体が温まる場所でもある。お腹の大きな血管の枝が仙骨の横を通っているので、ここを温めると血液そのものが温まって、全身の血のめぐりがよくなるのだそうだ。皮膚が薄くて骨が近いぶん、熱が伝わりやすいのだと思う。
カイロは腰より仙骨に
だから私は、腹巻をしたり、冬は仙骨にカイロを貼ったりするようになった。
腹巻は、やわらかいロング丈のものを愛用している。ロング丈だと使い方が選べるのが便利だ。一重のまま伸ばせば胸から腰まですっぽり覆えるし、二重に折ってお腹にあてることもできる。仙骨までちゃんと温まるし、締め付けないので一日つけていても苦しくない。
それに素材がやわらかいので、素肌につけても気持ちがいい。私のものはもう長く使っていて、どこで買ったのかもメーカーもわからなくなってしまったけれど、同じような薄手でやわらかいロング丈のものは今もいろいろある。

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カイロを貼ったまま寝て、低温やけどをした
失敗した話を書いておきたい。
冷えがひどかった年に、仙骨にカイロを貼ったまま布団に入ったことがある。1日目はなんともなかったのに、2日目に低温やけどのようになってしまった。
低温やけどは熱いと感じない温度で起こる。皮膚が傷むまでの目安は、44℃で3〜4時間、46℃で30分〜1時間、50℃で2〜3分だと言われている。
使い捨てカイロはJISで最高70℃以下と決められている。市販のものの表示は最高64〜70℃、平均53〜56℃くらいだ。これは規格にそって測った数値なので、肌に貼ったときの温度そのものではない。それでもさっきの44℃や46℃を、ゆうに超える熱さではある。
眠ってしまうと熱いと感じても体が動かない。しかも仰向けなら、自分の体重でカイロを押しつけていることになる。
押しつけるとなぜよくないのか、理由もはっきりしていた。
カイロを当てた場所を圧迫すると血流が抑えられて熱が逃げなくなり、温度が上がってやけどしやすくなる。だからベルトやガードル、サポーターで押さえてはいけない。
仙骨は座ると体重が乗る場所だ。椅子の背もたれに寄りかかったまま何時間も、というのも同じことになる。ここは特に気をつけたほうがいいと思う。
私は貼るカイロを使っていて腹巻と重ねてはいないけれど、腹巻やガードルの下にカイロを入れる人は気をつけてほしい。
気をつけているのはこの4つだ。
- 直接肌に貼らない。必ず下着や服の上から
- 寝るときは使わない。これで失敗した
- 押さえつけない。ベルト・ガードル・背もたれ
- 同じ場所に長時間当てない。熱いと思ったらすぐはずす
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温泉では、ジェットを仙骨に当てる
温泉に行くと私はジェットバスの水流を体に順番に当てていく。お腹、鎖骨、脇の下、肩甲骨、腰、そして仙骨。当てていると流れるような感じがするし、単純に気持ちがいい。
長いあいだなんとなくやっていたのだけれど、調べてみたらちゃんと元があった。
ジェットバスのもとになっているのは「水治療法」というリハビリ医学の治療法だ。渦を起こす渦流浴、泡を当てる気泡浴として、整形外科やリハビリの現場で使われている。
適応もはっきり決められている。手術のあとの血行障害。麻痺した手足の血行障害。筋のけいれん。そして慢性の炎症性の痛み——外傷、打撲、捻挫、そして腰痛。
腰痛が入っている。
しかも渦流浴は、総合リハビリテーション施設の設備基準に名前が入っている機器だ。病院が備えるものとして挙げられている。
仕組みはお湯の温かさと水圧に、渦や泡の動く水圧が加わってその場所にマッサージがかかるというもの。私が「刺激で流れる感じがする」と思っていたのはたぶんこれだ。
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ただし日帰り温泉のジェットバスは、医療機器ではない。そして「何分当てたら血流がどのくらい変わるか」という研究データは、調べても見つけられなかった。
だから私は「ジェットを当てると血が流れる」とは書かない。元になっている治療法があって、腰痛がその適応に入っている。私が知っているのはそこまでだ。あとは気持ちがいいから当てている。
意識するのは、そんな些細なことで十分だと思っている。カイロを当てるなら腰ではなく仙骨にしておこうとか、生理痛がひどいときは仙骨を意識してみようとか。そのくらいで十分だ。
念のために書いておくと、これは「仙骨を大事にしないと体を悪くする」という話ではない。ただ、ここは知っておくと女性にとってかなり体が楽になる場所だと思うので、知ってほしいのだ。自分にとって大切な場所があって、そこをお手当すると楽になるかもしれないと知っているだけで、十分だと思う。
それに、この知識は娘たちにも渡せる。生理痛で悩んでいるときに「仙骨にカイロを貼りなさい」と言ってあげられる。知っているというのは、そういうことだ。
私たちにとって、友情の証のような場所
彼女と一緒に勉強して、泣いた場所。だから私は一生、仙骨を忘れないし、おざなりにしないでおこうと思っている。私と彼女にとって仙骨は、友情の証のような場所なのだ。
みなさんも、少し意識して温めてみてください。これから寒い季節には、ここを温めるとすごく楽になりますよ。
※腰やお尻のあたりに強い痛みが続くとき、脚のしびれや力が入らないなどがあるときは、我慢せず整形外科などで相談してください。温めるのは体調のいいときに。炎症があるとき(熱を持って腫れているなど)は温めないほうがよい場合もあります。カイロを使うときは低温やけどに注意して、直接肌に貼らず、寝るときは使わないようにしてくださいね。
