前の記事で書いた玉造温泉。あのときの私は、なぜ体が楽になったのか理由がわからなかった。温泉に入ると体が軽くなる。でもそれがどうしてなのかまでは考えられず、体を温めたい、温めれば楽になる、ただそれだけを考えていた。
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でもある日、温泉について調べていると、入浴には温める以外の作用があることを知った。温熱・水圧・浮力。当時その中で特に気になったのが、水圧という言葉だった。
お風呂の健康効果は温熱・水圧・浮力の三つ
入浴には大きく三つの作用があると言われている。温熱は体を温める作用で、これは誰でも想像しやすいと思う。でも残りの二つ、水圧と浮力は、あまり意識したことがなかった。
私が最初に戸惑ったのは「水圧がかかるのに、なぜ体が軽くなるの?」ということ。表面的には理解できるのだけれど、しっかり言葉で説明できるほどには分かっていなかった。
水圧は血液や体液の循環を助ける
水の中に入ると、体は水の重さによる圧力を受ける。これが水圧だ。水圧は水の深さで決まり、深いほど強くなる。お風呂に入ると、胸、お腹、足と下にいくほど強く圧力がかかる。この圧力によって血液や体液が押し戻され、全身の血液やリンパが効率よく循環する。
肩まで浸かると、お腹まわりが3〜5センチ縮む
水圧がどれくらいの力なのか、数字を見て驚いた。
首まで浸かると、お腹まわりが3〜5センチ細くなる。やせるという話ではない。それくらいの力で、体が水に押されているということだ。
全身にかかる圧力を合計すると、500〜600キロ前後になるという計算もある。体格によるけれど、それだけの力で全身を包まれている。
もうひとつ、これを知って納得したことがある。横隔膜が押し上げられて、肺に入る空気が1リットルほど少なくなる。深い湯船でなんとなく息苦しい気がしたことがあるなら、それは気のせいではなかった。
心臓に戻る血液が増えている
押されているのは体の外側だけではない。皮膚の近くの静脈や、血液をたくさん抱えている肝臓まで押されて、血液が心臓のほうへ多めに戻される。
数字も出ていた。横隔膜あたりまでの半身浴で、心臓の中の血液量が130mlほど増える。肩まで浸かれば、もっと増える。
体が楽になるのは、この押し戻しのおかげでもある。ただし、心臓の仕事が増えているということでもある。
心臓や血圧に不安がある人に半身浴がすすめられるのは、これが理由だ。横隔膜から下だけなら、押される範囲が狭いので心臓への負担が小さくなる。
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浮力で体重が軽くなる
一方で、水の中では体が軽くなる。これが浮力だ。人は水の中に入ると体重の大部分が水に支えられる。首まで浸かった場合、体重は約10分の1ほどになるとも言われている。そのため関節、腰、筋肉にかかる負担が軽くなる。
水の中では「体が押されている(水圧)」と「体が軽くなる(浮力)」という二つのことが、同時に起きているのだ。
水圧と浮力の違いは、体にかかる方向
水圧と浮力がわかりにくいのは、水の中では体にかかる力が二種類あるからだと思う。ひとつは縦の圧、もうひとつは横の圧だ。
普段、私たちが感じているのは縦の圧。地面に立っているとき体重は下にかかって、足や膝、腰が体重を支えている。これは重力による上から下への圧力だ。ところが水の中に入ると、この縦の圧が軽くなる。水が体を支えるため、体重の多くが水に預けられるからだ。これが浮力。
一方で水の中では、体のまわりから押される力が生まれる。足、お腹、胸と、体のまわりから均一にかかる圧力。これが水圧だ。
つまり水の中では、縦の圧(体重)は軽くなるのに、横の圧(水圧)は体にかかる。この二つが同時に起きているから、体が軽く感じるのに圧がかかるような、あの不思議な感覚になる。
私は体感では理解していても言葉でうまく説明できない状態だったので、こうして言語化できたことで、ようやくしっかり理解できた。
水圧はお風呂の深さで大きく変わる
水圧は水の深さで変わる。普通の魚は深海では暮らせないし、人も深海の水圧には耐えられない。そういうことは子どもの頃に習って当たり前に知っていることだと思う。
そしてお風呂の深さでも、水圧の影響は変わってくる。家庭のお風呂の深さは大体50センチ前後。一方、温泉の浴槽はもう少し深いことが多く、立って入るお風呂になると100センチを超えるものもある。
昔のお風呂は今より深かった
昔の日本のお風呂は、今より深い浴槽だった。箱型で、体育座りをして肩までしっかり浸かるような深さ。今のお風呂は横になったり半身浴がしやすいように、浅めの浴槽が多くなっている。
箱型の深いお風呂は跨いで入るのが大変だったりするので、久しぶりに深い浴槽に入ると「入りにくいなあ」と感じる。それくらい浅い浴槽は便利な作りなのだ。つまり昔のお風呂は今よりも入りにくく、そのぶん体に水圧がかかるお風呂だったということになる。
温泉は昔のお風呂の深さに近い
温泉に入るようになって浴槽が深いと感じ、温泉は昔のお風呂の深さに近そうだと思った。それから温泉に行くと、浴槽の深さを見るようになった。
それまでは露天風呂ばかりに入って、室内のお風呂にはあまり入らなかった。源泉かけ流しの温泉に行っても、たいてい中のお風呂は普通のお湯のことが多かったからだ。
深い浴槽の実例でいうと、大阪・高槻の祥風苑の水風呂は80〜140センチもある。同じくらいの水温でも、お腹まで沈む深さだと冷たさの届き方がまるで違う。
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立ち風呂は家庭のお風呂の約二倍の水圧
ある温泉で室内の浴槽を見ていたとき、ふと「そういえば立って入るお風呂があるなあ」と気づいた。立って入るところもあれば、ジェット風呂になっているところもある。深さを見ると、だいたい110センチほど。
「これってどれくらいの水圧なんだろう」。そんな疑問がふと浮かんで調べてみると、深さ110センチの立ち湯だと、手のひらくらいの広さ(10センチ四方)に、お米10キロの袋を乗せたくらいの重さがかかっている計算になるのだそうだ。

気になったので、家の浴槽を測ってみた。底から縁まで、ちょうど50センチ。

立ち湯の110センチは、その倍以上ということになる。「約二倍の水圧」というのは、そういう意味だ。
体重は水に支えられて軽くなるのに、体のまわりからは優しく押される。そのため血液の循環が押し戻され、呼吸や姿勢の筋肉も自然と働く。呼吸の負荷も少し増えるので、ただ立っているだけでも「水の中の軽い運動」のような状態になるらしい。
滋賀のあがりゃんせにも110センチの立ち湯があった。身長157センチの私で、ちょうど胸の下あたりまでお湯がくる。
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お風呂から出るときにふらっとするのも、水圧のせいだった
これを知って、長年の疑問がひとつ解けた。
湯の中にいるあいだ、血管は水圧に押されている。ところが立ち上がった瞬間、その圧が一気に抜ける。行き場をなくした血液が下半身にたまって、頭へ行く血が減る。
湯上がりのふらつきは、のぼせだけが理由ではない。水圧が消えたことも効いている。
だから浴槽からはゆっくり出たほうがいい。勢いよく立つほど、圧の抜け方が急になる。
温冷浴をする人は、水風呂から出るときも同じだと思っておいたほうがいい。冷たさで血管が締まっているところに、水圧まで一度に抜ける。
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温泉を見る目が少し変わった
それまでの私は「温泉=体を温める場所」と思っていた。でも温熱、水圧、浮力。この三つを考えるようになってから、温泉に入るときの見方が変わった。温泉はただ温まるだけの場所ではなく、体にいろいろな働きかけをしている場所なのかもしれない、と。
このころはまだ泉質の効能まではわかっていなかったけれど、源泉かけ流しを意識して探し始めていた。今振り返っても、あのころ通った温泉はいいところが多い。お近くの方は、実際に浸かってみると心地よくてハマるかもしれない。
今の私は、水圧も使って整えている
あれから何年かたって、水圧の知識は私の入り方の一部になった。立ち風呂があれば必ず入るし、深い浴槽を見つけると嬉しくなる。立ち仕事で足がむくんだ日は、水圧で押し戻してもらう感覚がありがたい。
あのとき「温める以外にも作用がある」と知ったことが、今の温冷浴のやり方につながっている。知ると、同じお風呂でも入り方が変わるのだ。
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お風呂の効果を医学的に詳しく知りたい方には、この本がおすすめです。お風呂研究を20年続けてきた医師が、温熱・水圧・浮力など入浴の仕組みをわかりやすく解説してくれています。

