福井に行くことになって、行き帰りに寄れる源泉かけ流しの温泉を探したけれど見つからなかった。
三方五湖のあたりを調べても、めぼしいところは全滅だった。加温・循環・消毒のどれかが必ず入っている。
私は冷泉が好きだ。ブログを始めるよりずっと前から、冷泉のある温泉を探して入ってきた。だから福井で見つからなかったのがよけいに残念で、なぜないのだろうと数字を見てみた。
福井はそもそも源泉が少なかった
環境省の統計だ。
| 都道府県 | 源泉の数 | うち42度以上 |
|---|---|---|
| 大分 | 4,411 | 3,335 |
| 長野 | 985 | 417 |
| 岐阜 | 507 | 170 |
| 石川 | 335 | 76 |
| 三重 | 196 | 47 |
| 富山 | 178 | 71 |
| 福井 | 159 | 34 |
| 滋賀 | 86 | 2 |
福井の源泉は159本。長野の6分の1で、大分の28分の1だ。
そのうち42度以上の高い源泉は34本しかない。さらに159本のうち77本が芦原温泉のあたりに集まっている。県全体の約半分が、一か所にかたまっている。
日帰りで入れるかけ流しが残らないのは、当たり前だった。
理由は火山だと思う
福井県には活火山がない。
長野には御嶽・浅間・焼岳。岐阜には御嶽・焼岳・白山。大分は鶴見・由布・九重。火山があると、地熱で温められた湯が高い温度で大量に湧く。
火山がなければ、深く掘って汲み上げることになる。温度は低く、量も少ない。そうすると加温が要る。加温すれば、もったいないので循環させる。循環させれば、衛生のために消毒が要る。
はじめに加温を決めた時点で、あとは決まってしまう。
この夏から秋に入った温泉でも、同じことが起きていた。大阪の祥風苑は源泉33.6度で、加温・循環・消毒が全部入っていた。火山のない土地の温泉だ。
露天風呂だけかけ流しのところがあった
福井で一軒だけ、気になるところが見つかった。鯖江市のラポーゼかわだだ。
公式サイトにこう書いてある。
露天風呂は源泉かけ流しをお愉しみいただけます
「露天風呂は」と書いてある。内湯については何も書いていない。源泉の温度も、加温や循環のことも出ていない。
これは隠しているのではなくて、正確に書いてあるのだと思う。かけ流しの浴槽と、そうでない浴槽がある。だから「露天風呂は」と限ってある。
前に源泉かけ流しの見分け方を調べたとき、聞くべきなのは「ここはかけ流しですか」ではなく「どの浴槽の話ですか」だと書いた。まさにその書き方だった。
泉質は重曹泉と芒硝泉の両方を含むとある。大人650円で、毎週火曜が休みだ。ここは行ってみたい。
温めなければかけ流しのままだ
ここでずっと思ってきたことを書く。
温度が低い湯を温めるから、かけ流しでなくなる。
冷たいまま出せば、加温も循環も消毒もいらない。そのままで源泉かけ流しになる。
理屈で言っているのではなくて、実際にそうしている温泉に、私は何年も通っている。
私が最初に入った冷泉
滋賀の蒲生野の湯だった。
ここには加温していない源泉そのままのお風呂がある。入り方は地元のおばあちゃんに教わった。当時の私にとっては、はじめての冷たいお風呂だった。
あそこで冷泉を知らなければ、いまのブログはたぶん無い。
明治温泉は冷泉だけが源泉そのものだった
長野の明治温泉には湯船が三つある。冷泉とぬる湯とあつ湯。

廊下に、宿の説明が貼ってあった。
浴室の打たせ滝となっておりますのが源泉です(冷泉)
是を二つの浴槽に入れ加熱循環しております。
すべての浴槽に水道水等を混ぜている事はありません。
冷たいままの一つだけが、源泉そのもの。温めた二つは循環していた。
源泉は25度で、毎分140リットルが自然に湧いている。加水はしていない。
ここは八ヶ岳のふもとで、火山はある。それでも源泉は冷たい。火山があっても冷泉は出るし、そのときやっぱり加温と循環になる。
私はその冷泉に何度も入った。源泉に直接打たれていたことになる。
ひめしゃがの湯も仁左衛門の湯も同じだった
岐阜のひめしゃがの湯は、泉質の名前そのものに「冷鉱泉」と入っている。分析書の源泉温度は22.3度。館内の案内では約24度になっていた。

露天の源泉風呂はその冷たいまま、内湯の炭酸泉は36度前後に加温してある。冷たいほうが、源泉そのもの。3時間いて、その二つを行ったり来たりしていた。
京都の仁左衛門の湯には源泉が二つある。壱の湯(冷泉)26.2度と、仁の湯46.6度。公式サイトが「加温加水なし」と書いているのは、かけ流しの浴槽についてだ。
前にこう書いた。
ここには冷泉があるので、私はそれが嬉しくて通っている
滋賀の宝船温泉も同じ形だった
一度行ってみたいと思っている温泉がある。滋賀県高島市の宝船温泉 湯元ことぶきだ。
公式サイトを見ても、源泉かけ流しかどうかが書いていない。加水も加温も循環も消毒も、何も書いていない。
分かるのはここまでだった。
泉質=メタケイ酸含有冷鉱泉
天然の保湿成分メタケイ酸や鉄分、炭酸を豊富に含むにごり湯
ここも「冷鉱泉」だ。ひめしゃがの湯と同じ分類になる。25度に届かない湯のことだ。
ひめしゃがは、その冷たい源泉をそのまま湯船にしていた。そういうやり方もできる。ただ宝船温泉のほうは、かけ流しとも加温とも書いていない。温かい湯船があるなら、そちらは加温しているはずだ。
では、源泉そのものには入れないのか。
別のページに答えがあった。
この施設は「宝船サウナ」というものもやっていて、そちらのページに「源泉水風呂」と書いてあった。
湯船は加温。水風呂が源泉。明治温泉とまったく同じ形だ。
サウナのほうに行けば、冷泉にそのまま入れる。
冷たい源泉は、湯船にするには温めなければならない。でも水風呂なら、そのまま出せる。温めなくていいことが、そのまま強みになる。サウナと組み合わせたら、冷泉はいちばん贅沢な水風呂になる。
こういう使い方をしてくれるところがあるのが、素直に嬉しい。
こうやって冷泉を見直してくれる施設が増えれば、私たちが源泉そのものに入れる機会が増える。加温も循環も消毒もされていない、汲み上げたままの湯に。
だから必ずいつか行く。
まだ行っていないので上に書いたのは公式サイトから読み取った推理でしかないけれど、行ったら現地の掲示を読んでくる。
冷たいほうが源泉そのものだった
並べると、同じ形が出てくる。
| 温泉 | 源泉そのもの | 温めたもの |
|---|---|---|
| 蒲生野の湯(滋賀) | 加温していない源泉のお風呂 | 加温した湯 |
| 明治温泉(長野) | 冷泉25度(打たせ滝) | ぬる湯・あつ湯=加熱循環 |
| ひめしゃがの湯(岐阜) | 源泉風呂(分析書22.3度) | 36度に加温した炭酸泉 |
| 仁左衛門の湯(京都) | 壱の湯 26.2度 | 仁の湯 46.6度 |
| 宝船温泉(滋賀) | 源泉水風呂 | 湯船=加温(推定) |
さっき書いた「どの浴槽の話ですか」の答えは、この5軒では冷たいほうにあった。
ただ冷たければ源泉とは限らない。ひめしゃがの湯には露天に白湯もあるし、金城温泉の水風呂は井戸水だった。結局は掲示を読むしかない。
おばあさんたちはもう知っている
そう思っているのは、私だけではないみたいだ。
蒲生野の湯で冷たいお風呂の入り方を教えてくれたのは、地元のおばあちゃんだった。仁左衛門の湯でも、常連のおばあさんたちが冬でも冷泉に入っている。腰の曲がった方が豪快に水風呂に入られるのも見た。
冷泉の良さを、みんなもう知って入っている。
入りやすい理由もある。前に調べたとき、こう書いた。
冷泉(26℃)は痛みのセンサーが反応しない温度なので、痛くはない
水風呂が怖い人でも、26度くらいなら入れる。温冷浴をはじめる人には入りやすい温度だと思う。私は水風呂18度から冷泉26.2度へ移ると、この低い温度でも暖かく感じる。
冷たい水は体に悪いと思っていたころの私なら、たぶん入らなかった。そうではないと知ってから、入り方そのものが変わった。
同じことが、明治温泉の板にも書いてあった。
冷泉に入る時、大変冷たく感じますが肩まで入りますと以外と温かく感じ、肩や腰など滝に打たせますと実に爽やかでマッサージと同じ効果があります。

私が自分の体で感じたことが、そのまま書いてあった。しかもこの板には、こう続いている。
どちらも一度に長く浸かるより、一日に何度かに分けて入浴した方が効き目はあります。
これは湯治の考え方そのものだ。
もっと冷たい冷泉でも嬉しい
念のために書いておきたい。
26度がいい、という話ではない。
私がこれまでに入った冷泉は、ひめしゃがの湯の22度台から仁左衛門の湯の26.2度くらいまでだ。明治温泉の冷泉は25度で、打たせ滝に肩を入れると最初はひやりとするけれど、しばらくすると温かく感じてくる。
もっと低い冷泉でも、私は嬉しいと思う。
体温くらいのぬるい冷泉にも、水風呂と変わらないくらい冷たい冷泉にも、それぞれの良さがあるはずだ。
ぬるい冷泉なら、いつまでも入っていられる。冷たい冷泉なら、上がったあとの温まり方が違う。どちらも、そのままでしか味わえないものだ。
温度で選り分けてほしくない。「低すぎるから湯船にできない」と決めてしまわないでほしい。
温泉でなくても地下水のかけ流しは嬉しい
もうひとつ書いておきたいことがある。
温泉でなくてもいい。
金沢の金城温泉には、手描きの間取り図が貼ってあった。浴槽ひとつずつに説明がついている。

- 〈大浴槽〉源泉掛け流し!ぬるめで永遠に浸かっていられる
- 〈水風呂〉天然井戸水掛け流し!
これが、いちばん親切な書き方だと思う。どの浴槽が何なのか、聞かなくても分かる。
そして水風呂が井戸水のかけ流しだった。「この水は飲めます」と書いてあって、水道の蛇口が逆さまを向いて流れっぱなしになっている。飲んでみたら、すごく美味しい水だった。
汲み上げたままの水が、ずっと入れ替わっている。温泉をかけ流しているのと同じくらい贅沢なことだと思う。
冷泉は十分な売りになると思う
最後に、いちばん書きたかったことを書く。
冷泉が、もったいない扱いをされている。
「温度が低いので加温しています」と申し訳なさそうに書いてある掲示を何度も見たけれど、私はその冷たさのほうが嬉しかった。
- 冷泉は、そのまま出せば源泉かけ流しになる。加温も循環も消毒もいらない
- 温かい湯と交互に入ると、体の芯まで温まる。私はこれで冷え性が変わった
- 25度くらいまでのものなら、水風呂が苦手な人でも入れる
- ぬるい冷泉は長く入っていられる。ひめしゃがでは3時間いた
- 冷たい冷泉は、上がったあとの温まり方が違う
- 火山がない土地でも、本物の源泉に入れる
そして、これを言っているのは私だけではない。
明治温泉の宿は、江戸時代からこう伝えてきた。
入浴のしかたは、お湯と冷泉に交互に入る事により健康になると伝えられています。
ひめしゃがの湯も、宿のほうからこうすすめている。
36度前後の炭酸泉に10分ほど入ると効果が高まる。24度の源泉風呂と交互に入るとより良い
冷泉を持っているところは、その価値をちゃんと知っている。
冷泉を持っている施設に、お願いしたい。全部を温めてしまわないでほしい。一つでいいから、そのまま出してほしい。
そのまま出した湯船は、加温も循環も消毒もいらない。そしてそれは、その施設にしかない売りになると思う。
宝船温泉のように、もう始めてくれているところがある。
同じことを思っている人は、きっと少なくない。その声が集まれば、変わるかもしれない。

