ミトコンドリアという言葉は何度も聞いてきた。寿命に関係があるとか免疫に関係があるとか、そういう話も知っていた。
読めば理解はできる。でも腹落ちしなかった。サウナや水風呂でミトコンドリアが刺激されるという話を聞いて記事を探してみても、出てくるのは活性化するとか増やすとかいう言葉から始まるものばかりで、読み終わっても自分の中に入ってこない。きっと基本の何かが抜けているのだと思った。
なので、いちばん最初のところから調べ直してみた。そうしたら抜けていたものが3つ見つかって、それが分かった途端に急にスッキリした。
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抜けていた一つ目 虫ではなく細菌だった
元は別の生き物だったと聞いて、私は虫のようなものを想像していた。だが違っていて、正体は細菌だった。
目に見えない大きさで、細胞ひとつだけで生きている生き物だ。ぬか床の乳酸菌や納豆菌と同じ仲間になる。自分の膜を持ち自分のDNAを持ち、自分で二つに分かれて増える。単独で生きていたときにできたことが、今もそのままできる。
細胞の一部ではなく、同居している生き物なのだ。
抜けていた二つ目 飲み込んだのは人ではなかった
ミトコンドリアのでき方を説明するときに「ある細胞が別の細菌を飲み込んだ」という言い方をする。私はこれを人の体の中で起きたことだと思って読んでいた。寄生虫が入り込むみたいに、体のどこかに異物が入って細胞がそれを飲み込んだという話だと。
ところが、これがまったく違った。まだ細胞ひとつだけで生きていた生き物同士に起きたことだ。
何億年も前、水の中には細胞ひとつで生きている生き物しかいなかった。そのうちの一つが別の細菌を飲み込んだ。アメーバがエサを飲み込むのと同じことだ。飲み込んだ側も細胞ひとつ、飲み込まれた側も細胞ひとつ。
ふつうなら消化されて終わる。でもこのときは消化されなかった。飲み込まれた側は中で生き続け、酸素を使ってエネルギーを作るのが得意だったので、飲み込んだ側はそれを使わせてもらうようになる。長い時間が過ぎるうちに飲み込まれた側は自分だけでは生きられなくなり、飲み込んだ側もそれなしでは生きられなくなった。

そしてその子孫が植物になり動物になり人になった。
私たちは体の中に違う生物を飼っているのではない。違う生物と同居を始めた細胞の子孫が、私たちだ。ここが分かったときに、やっと腹に落ちた。
違う生物だった証拠が今も残っている
なぜそう言えるのかというとミトコンドリアが今も自分のDNAを別に持っているからだ。
人の細胞には核の中に入っているDNAがある。親から半分ずつもらう、血縁関係を調べるときに見るあのDNAだ。ところがミトコンドリアはそれとは別に、自分のDNAを持っている。間借りしていたころの名残がそのまま残っているわけだ。
これが今の定説だ。
抜けていた三つ目 一つの細胞にたくさん入っている
私はミトコンドリアが細胞に一つずつあるものだと思っていた。ところがこれも違って、一つの細胞の中に数十から数千も入っている。
心臓や筋肉のように力を使うところにはぎっしり入っていて、あまり使わないところには少ない。細胞によってまるで数が違う。
これが分かると「増える」の意味が通る。ミトコンドリアは自分で二つに分かれて増える。元が細菌なので細菌と同じやり方で増えるわけだ。そして弱ったものは壊れたところだけを切り離してから、分解されて片づけられる。片づけたぶんは新しく作って補う。
つまり死んだミトコンドリアが細胞の中に残っているのではない。数千のミトコンドリアが増えたり片づけられたりしながら、入れ替わり続けている。運動や寒さでミトコンドリアが増えるという話は、この作る側のスイッチが入るという意味だった。
丸い回路とATPは別のものだった
ミトコンドリアは体のエネルギーを作る、とよく書かれている。私はそれを読むたびに、学校で見たあの丸い回路の図を思い出していた。糖が分解されてぐるぐる回る、あの図だ。あれがATPというものだと思い込んでいた。
調べてみたら別のものだった。丸い回路はクエン酸回路という名前で、たしかにミトコンドリアの中にある。でもATPは回路ではなく、物質の名前だった。エネルギーそのものではなく、エネルギーを持ち運べる形にしたもので、体の中で使うときはこれを崩して使う。だから体の電池と呼んでいい。
糖や脂が分解されてミトコンドリアに入り、あの丸い回路を回って、その先でATPができる。回路は作っている工程の途中で、ATPは出来上がったもののほうだった。
筋肉を動かすのも考えるのも体温を保つのも全部この電池を使っている。食べたものと吸った酸素を材料にして、生きているあいだはずっと作り続けている。
母からしか受け継がれない
ここがいちばん驚いたところだった。
ミトコンドリアのDNAは母親からしか受け継がれない。受精のときに父親側のミトコンドリアは捨てられてしまうので、子どもが持っているミトコンドリアは全部母親のものだ。
核のDNAは父と母から半分ずつもらう。でもミトコンドリアだけは母から丸ごと来る。
息子にもミトコンドリアのDNAは渡るのだけど、息子の子どもには伝わらない。自分のミトコンドリアが続いていくのは娘を通ってだけだ。
家は父方で継ぐものだと言われて育った。内孫と外孫という言い方も残っている。それが昔からどこか納得できなかったのだけれど、体の電池を作る仕組みだけは、母から娘へとつながっていた。
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赤血球には一つもない
細胞ごとに数が違う話でいちばん面白いのが赤血球だ。人の赤血球にはミトコンドリアが一つもない。
しかも最初から無いのではない。作られている途中では持っていて、仕上げの段階で核と一緒にわざわざ捨てている。作っている途中はヘモグロビンを作ったり細胞が分裂したりでエネルギーが必要なのでミトコンドリアが要る。
でも出来上がった赤血球の仕事は酸素を運ぶことだけなので、ミトコンドリアがあるとかえって困る。積んだ酸素を自分で使ってしまったら、届けられる分が減ってしまうからだ。それに捨てた場所には、そのぶんヘモグロビンをもっと詰められる。
そのかわり代償もある。ミトコンドリアがないので赤血球は酸素を使わない方法だけでエネルギーを作っている。そして核も捨てているので、自分を修理する道具も持っていない。だから傷んできても直せない。
人の赤血球の寿命は約120日だ。傷んだものは脾臓などで片づけられて、骨髄から新しいものが出てくる。自分で修理する仕組みを捨てたかわりに、体が新しく作って入れ替えている。
つまり多いほどいいという話ではない。細胞によっては無いほうが仕事ができる。
パンの酵母にはあるが乳酸菌にはない
ここで私の仕事とつながってきた。
ミトコンドリアを持っているのは細胞に核がある生き物だ。人も動物も植物もキノコもカビもみんな持っている。持っていないのは細菌だ。細菌はいまも、あのころと同じように細胞ひとつで生きている。
なのでこうなる。
| 菌や酵母 | ミトコンドリア |
|---|---|
| パンの酵母 | ある |
| 麹のカビ | ある |
| ぬか床の乳酸菌 | ない |
| 納豆菌 | ない |
毎日さわっているものがここで分かれていた。ちなみに植物はもっとすごくて、ミトコンドリアのほかに葉緑体も取り込んでいる。あれも元は光合成をする細菌だった。二回も違う生物を自分の中に入れたことになる。
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腸内細菌は住み方がまるで違う
体の中に違う生物が住んでいるという話なら腸内細菌もそうではないかと思った。調べてみたら住み方がまるで違った。
腸の中は口から肛門までつながった一本の管の中だ。ちくわの穴と同じで厳密には体の外側になる。だから腸内細菌は細胞の中に入り込んだわけではない。体の中の、外側の場所に住んでいる。
| くらべるところ | 腸内細菌 | ミトコンドリア |
|---|---|---|
| どこにいるか | 腸の中(体の外側) | 細胞の中 |
| 自分の一部か | 別のまま | 自分になった |
| 入れ替わるか | 食べるものや暮らしで変わる | 入れ替えられない |
そして腸内細菌は細菌なのでミトコンドリアは持っていない。乳酸菌もビフィズス菌も大腸菌も持っていない。腸にいるカビの仲間だけが持っている。
体の中に違う生物が住んでいる話は二つあることになる。ひとつは出入り自由の下宿で、食べるものや暮らしが変われば住人も変わる。もうひとつはもう別れられなくなった同居で、こちらは入れ替えられない。
ちなみに腸内細菌は母から渡るとよく言われるけれど、父からも家族からも入ってくる。お産や授乳やお世話をすることが多い人の腸内細菌が渡りやすい、というだけの話のようだ。
知ってから体の見え方が変わった
ここまで調べて、自分の体の見え方が少し変わった。
いま私を動かしている電池は、元は違う生物だったものが作っている。それは母から来たもので、母の母から来たもので、そうやってずっと前からつながってきた。
一人の体だと思っていたものが、そうではなかった。
そもそも私がミトコンドリアを調べ始めたのは、朝の水シャワーを続けていて体がはっきり変わってきたからだ。寒さに強くなったのはミトコンドリアと関係があるのか、それが知りたかった。そちらは別の記事にまとめてある。
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