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渡鹿野島|結婚前の夫と泊まった、海の幸がすごい静かな島(いまは「恋人の聖地」)

温泉のある場所

もう30年以上前、まだ結婚する前の夫と二人で、三重県の渡鹿野島(わたかのじま)に行った。1993年の2月、ちょうどバレンタインの日に家を出た。きっかけはパンフレットで見た福寿荘という宿の食事で、海の幸がずらりと並んだ写真に惹かれて、それだけでここに決めた。当時はまだ温泉にもそれほど興味がなくて、とにかくおいしいものが食べたい、その一心での予約だった。

渡鹿野園地。伊勢志摩国立公園の看板の前で(顔はスタンプで隠しています)。

小さな船で渡る島

渡鹿野島へは船で渡る。ただこれがフェリーのような立派な船ではなくて、バス釣りにでも使うようなエンジン付きの小さな船だった。「これに乗るの?」と驚くような船に揺られて、ほんの数分で島に着く。今あらためて調べてみると、この渡し船は今も対岸から3分ほどの小さな船のままで、料金も片道数百円ほど。あの頃と変わらない気軽さで渡れるようだ。

なんだか、腑に落ちない島

島はとても静かで、一周するのもすぐできてしまう広さだった。自然ばかりで、本当にひっそりとしている。こういう観光地に行くと、たいていは町の人が挨拶をしてくれたり、どこか歓迎してくれる空気があるもの。それがこの島では、すれ違ってもサッと通り過ぎてしまったり、逆にじろじろ見られたりして、なんだか変な感じがずっとしていた。島の子どもをたまに見かけたり、小さな本屋さんがあったのを覚えている。当時の私はまだ二十代の前半で、正直この自然だらけの静けさを少し退屈にも感じていた。きっと今の年齢で行けば、見え方はまるで変わるのだろうなと思う。

泊まった部屋から見た的矢湾。養殖の筏が浮かぶ、静かな入り江だった。

あとで知った、島のこと

この腑に落ちない感じの理由が分かったのは、旅から帰ったあとだった。人に「結婚前の彼と渡鹿野島に行った」と話したら、「二人で行ったの!? あそこはカップルで行くところじゃないよ」と驚かれて、そこでようやく合点がいった。当時この島は、大人の歓楽の島として知られた場所だったらしい。「最後の桃源郷」と呼ばれていたことも、ずっとあとになって知った。何も知らないまま、ただごはん目当てで新婚前の二人で訪ねていたのだから、島の人に不思議そうに見られたのも無理はない。そして今では、この島は「恋人の聖地」と呼ばれているというから驚く。上から見るとハートの形をしているそうで、時代とともに島の呼ばれ方までこんなに変わるものかと、しみじみ思う。

とにかく、海の幸がすごかった

湾に面して建つ福寿荘。

宿に着いてからは、その食事がもう圧巻だった。二泊三日、食べきれないほどの海の幸が次から次へと出てくる。中でも忘れられないのが、フグとイセエビ。フグを食べたのはこのときが生まれて初めてで、白子なんて「これ、本当においしいの?」と半信半疑で口に運んだ。そうしたら想像をはるかに超えるおいしさで、二人で「おいしいっ!!」と大騒ぎしてしまった。それからというもの、夫婦そろってフグの白子が大好きになって、今まで食べた中でもここのが一番だったと今でも思い出す。イセエビも、焼いたものは食べたことがあったけれど、お刺身は初めてだった。あんなに甘いものだとは知らなくて、これにも驚いた。的矢牡蠣やアワビもあったと思う。

印象に残っているのが、仲居さんのこと。今ではあまり見かけないけれど、担当の仲居さんがついてくれる形で、本当によく世話を焼いてくださった。豪華すぎて二人ではとても食べきれなくて、残してしまったものを「もったいないから」と、いろいろ考えて翌朝に調理し直して出してくれたりもした。イセエビの残った頭は、翌朝お味噌汁になって出てきた。今ならもっと食べられたのにと、あの膳を思い出すたびに思う。

福寿荘の箸袋。今も手元に残っている。

残念なのは、当時は写真というと景色を撮るものだったので、あの料理の写真が一枚も残っていないこと。船盛りに鍋、本当にすごい食事だったから、お見せできないのが心残り。

お風呂のこと、そして温泉のこと

正直に言うと、この旅ではお風呂の記憶がほとんどない。当時は温泉に興味がなくて、お風呂なんて夜に入ればいいくらいの気持ちで、宿に着いてもずっと外をぶらぶらしていた。温泉だったのかどうかさえ覚えていない。

パンフレットにあった展望大浴場。湾を一望できる。

今になって宿のホームページを見てみたら、ちゃんとした温泉だった。ナトリウム・カルシウム塩化物泉という泉質で、塩化物泉は塩の成分が肌を包んで、よく温まって湯冷めしにくいとされるお湯。飲むこともできて、胃腸にいいとされる「胃腸の湯」なのだそう。源泉は31.7度と体温より低いので、そのままではなく温めて使っていて、今は循環式で塩素の消毒もしているとのこと。パンフレットの写真を見返すと、湾を一望できる大きな展望風呂で、当時からずいぶん眺めのいいお風呂だった。今は伊勢志摩でも最大級という庭園露天風呂もあるらしい。あの頃きちんと入っておけばよかったなあと、今さらながら思う。

通行料の、今と昔

古い領収書が出てきて、面白いことに気づいた。あの頃、島の近くまで走る「パールロード」という道路は有料で、通行料を820円払っていた。それが今では、この道は無料で走れるようになっている。当時はお金を払って通る観光道路だったものが、今ではただの絶景ドライブコースとして気軽に走れる。30年という時間の長さを、こんな一枚の紙からも感じてしまう。

当時のパールロードの通行券。普通車で820円だった。

また、行ってみたい

今あらためて振り返ると、あの静けさも、腑に落ちない感じも、全部ふくめて忘れられない旅になった。あの頃は退屈に思えた自然の多さも、今の私ならきっとゆっくり味わえる気がする。渡る船からの景色も、島の空気も、当時とはまた違って見えるだろうか。福寿荘には日帰りでランチと温泉を楽しめるプランもあるようで、伊勢海老の造りがつくと聞くと、やっぱりまた食べに行きたくなる。気軽に立ち寄ってみるのも良さそうで、久しぶりにあの島を訪ねてみたいなと思っている。

♨ 福寿荘に泊まってみたい方へ|風待ちの湯 福寿荘 渡鹿野島にある温泉宿。海の幸のお料理と、湾を望む展望大浴場・庭園露天風呂が楽しめます。日帰りでランチと温泉を味わえるプランもあります。

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じゃらん派の方はこちらから:風待ちの湯 福寿荘(じゃらん)

※この記事は個人の体験・感想をもとにしています。設備や営業情報は変わることがあるので、最新は施設にご確認ください。

そのほかの温泉の記録は、温泉めぐりのまとめからもたどれます。

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